2025年12月 リエゾン戦略部門長の呟き:九州での初めての勤務 (12月)
早いもので、もう3年前のことになります。経済産業省を退職して1年半となろうとしていた2022年の年末、一般企業で役員として勤務していた小職のもとに、W先生から1通のメールが来ました。「IMIで働くことに興味はありませんか。」
W先生とは、2013年、小職が経済産業省の大学連携推進課長であった頃、大学院生向けの研究インターンシップ事業(現在の「C-ENGINE」)を立ち上げる際に、九州大学の代表として、準備委員会の委員をお願いした関係で、その後も懇意にさせて頂いていました。
最初の率直な感想は、「今更、九州に行くのか? 数学を離れてから30年近くも経って、数学関係の仕事をするのか?」
とは言え、大学院まで数学を専攻してきたこともあり、自分の中には、数学的思考が常に存在していましたし、また、内閣府で勤務していた時代には、当時のCSTI議員であったK先生と一緒に、「数理・AI・データサイエンス」 教育の推進を唱え、第6期科学技術・イノベーション基本計画(2021年3月閣議決定)でも、その重要性について強調していたこともあり、第2の疑問については、結局、巡り巡って、自分に戻ってきたのかもしれないという感覚でした。
東北大学、東京科学大学(当時は東京医科歯科大学)、金沢工業大学、秋田県立大学で、既に、客員教授などの仕事を請け負っていたこともあり、大学での勤務そのものには、あまり違和感はありませんでした。ただ、これらでは、大学全体としての戦略策定や各種政策(国のイノベーション政策、産学連携、スタートアップ、基準認証など)についての仕事や講義を受け持っていましたので、「数学関係の仕事」 には、やはり一瞬、躊躇がありました。
最初は、お誘いについてお断りをさせて頂くつもりでした。理由は、数学から離れて長い年月が経っていたということ、それから、当時の会社では役員を任されており、兼業を含めて満足のいく仕事環境にあったことなどです。加えて、2023年には、さらに別会社の役員になるという話もあり、転職する理由は特に見つかりませんでした。
2023年の6月頃だったかと思います。梶原所長に、「新たに別会社の役員になるので、1年間は今の会社を辞めることはできません」 と、やんわりとお断りのお返事をしました。しかし、お返事は、「1年待てばいいのですか? 教員の異動では、1年後の異動というのも良くあることです。」
率直に申し上げれば、「参ったな」 という気分でした。その後、IMIとはどのような組織なのか、どのような仕事をするのか、どのような体制なのかなどなど、色々と伺っていくうちに、とうとう転職という方向に傾き始めました。
最後の課題は、「九州」 でした。秋田県での5年間の勤務経験がありますので、地方勤務自体に嫌悪感があったわけではありません。ただ、40歳の前半で、長いキャリアの1つとして地方勤務を経験することと、既に国家公務員としては勤め上げて、むしろ経験値を持って貢献しなければならない立場にある身とでは、自ずと求められる役割が違います。数学系の研究所で、どれほどの貢献ができるのか、それも、東京から遠く、知り合いもほとんどいない九州の地で。今更、新しいことに挑戦するのか?
最後に決心を促してくれたのは、IMIが、日本唯一の応用数学・産業数学を振興する研究所であるという点です。大学の普通の数学科、数理学科では、決して転職しなかったと思います。数学の理論を産業の発展のためにも展開する、あるいは、産業界の困っている点について何等かの助言をする、さらには、産学協働の中から新しい数理科学の芽を発見する、こういったことを本職としているのは、国内では、IMIが唯一の組織なのです。
小職の帰属するリエゾン戦略部門は、正に、このようなIMIの活動の窓口となる部署です。IMIが創立されてから15年めを迎えましたが、まだまだ小さな組織であり、活動の拡大とそのための体制・制度の整備が山積しています。また、本格的なAI時代を迎え、産業界の皆様からのお問い合わせなども急速に増加しています。さらには、日本の応用・産業数学のリーダーとして、学際分野の開拓、国際関係の強化、国内の関係者のネットワーク化、地域との連携などへの期待も高まっています。
研究者の方々があまり得意としない、これらの点について、一元的な窓口となり、総括的に業務を行っているのが、リエゾン戦略部門になります。
その意味では、小職のこれまでの経験が、何らかの形でお役に立つ部分もあるのではないかと期待と希望を持っているところです。ただ、もちろん、文化や組織の違いから来る相違点や、チャレンジしなければならない点も沢山あります。その意味では、常に挑戦も不可避だとも感じています。
少し長くなってしまいました。産業界を含めた学内外の皆様には、何かありましたら、是非、遠慮なく、リエゾン戦略部門にお声かけ下さい。皆様にできるだけ寄り添って、良い方向性が見つけられるよう、一緒に考えさせて頂ければと思っています。
