IMIについて

所長メッセージ





ご挨拶

九州大学マス・フォア・インダストリ研究所所長 佐伯修
平成30年10月1日


マス・フォア・インダストリ研究所(以下IMIと称します)は、平成23年4月、大学院数理学研究院を分割改組して誕生した本学5番目の附置研究所です。純粋数学と応用数学の垣根を取り払って産業界や諸科学分野と協働するスタイルは世界にも類がなく、平成25年4月には文部科学大臣より共同利用・共同研究拠点「産業数学の先進的・基礎的共同研究拠点」に認定されました。IMI は大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所と京都大学 数理解析研究所に続くわが国3番目の数学系研究所です。その後明治大学 先端数理科学インスティテュートが加わり、数学・数理科学系の4拠点として当該コミュニティのサポートのもと力を合わせて活発な研究活動を行っているところです。IMIはまた、文部科学省委託事業「数学アドバンストイノベーションプラットフォーム(AIMaP)」(平成29~33年度)を受託し、国内12の協力拠点とともに産業界・他分野学界に数学からアプローチし社会で数学がより貢献できる仕組みを構築すべく様々な活動を展開しています。

20世紀後半以降のコンピュータの発達は世界を一変させました。かつては社会において無用と思われ、むしろそのことを誇りにさえしていた数学分野を産業技術の最前線に押し出しています。暗号など高度な情報セキュリティ技術の発達は数論や代数幾何なしにはあり得ませんし、GPS によるカーナビゲーションでは、一般相対性理論が高精度の位置同定を可能にしています。リアルでスムーズなCG動画は、幾何学、表現論、可積分系などが支えています。確率微分方程式に基礎におく数理ファイナンスや金融工学はグローバル経済を動かして政治にまで影響を及ぼすようになりました。近年、ビッグデータの利用が様々な分野で進んでいますが、データの利活用には統計学や最適化理論に加え、最近では特異点論も役立つことがわかってきました。ミクロからマクロまでの流体運動や材料物性の計算可能性の拡がりによって、解析学からトポロジーまでを巻き込んだ鋭い数理モデリングが活躍しています。数学固有の厳密な理論形式・思考様式は計算機との相性が抜群なのです。

マス・フォア・インダストリ(MI)とは純粋数学・応用数学を流動性・汎用性をもつ形に融合再編しつつ産業界からの要請に応えようとすることで生まれる、未来技術の創出基盤となる数学の新研究領域です。産業技術の要請による課題は、問題自体は明確なものの、数学的定式化がなされていないものも数多くあります。有用な技術は、応用を意識せず柔軟で自由な発想にもとづいて生み出された数学からもたらされることもしばしばです。IMIでは、産業界・諸科学分野と連携して、現場でのニーズの高い数学的課題の解決や技術の開発にあたっていますが、それと同時に、予見できない未来の革新技術を生み出すシーズとなるような数学の基礎研究も進めています。我々IMIの強みはまさにそこにあります。産業界は問題の宝庫で、産業界との交流はこの点でも数学に豊かさをもたらしてくれます。さらに、これら特色ある研究活動を教育に活かすのもIMIのミッションの一つです。技術の未来を担う広い視野と高い国際性を持ち、独創的研究を遂行できる独立した若手MI研究人材の育成に力を注いでいます。また、九州大学数理・データサイエンス教育研究センターを通して、全学の学生教育へも貢献しています。

博士課程学生の国内外企業への3か月以上の長期インターンシップ、MIフォーラム、スタディグループなど数学と産業界の連携を推進するユニークな活動は、文部科学省21世紀COEプログラムやグローバルCOEプログラムを展開していた頃から注目されていましたが、IMI設立を契機に企業との共同研究が一挙に増え、MI研究が本格化しています。まだ歴史の浅い研究所ですが、世界のピークをなす研究分野が複数育っています。平成24年には、ペアリング暗号解読の世界記録を樹立しました。スーパーコンピュータ上でビッグデータ処理性能を計測するグラフ処理のベンチマークテストでは、平成26年を皮切りに、7期連続(通算8期)で世界1位を獲得しています。

IMIは、新たなグローバル展開と社会科学分野への進出を視野においています。平成26年度にLa Trobe大学(メルボルン)内に設立したIMIオーストラリア分室をさらに強化し、ここを核として、農業・地球環境分野に強みをもつオーストラリア・ニュージーランドの主要な産業数学研究機関との連携を進めています。そして、オセアニアを含み、東南アジアからハワイまでをカバーするアジア太平洋産業数学コンソーシアム(Asia-Pacific Consortium of Mathematics for Industry:APCMfI)活動を実質化させ、産業数学で欧米に並ぶ世界の第3極を作り上げるべく、さまざまな努力をしています。さらにはLa Trobe大学のLa Trobe Asiaとも連携して、九州大学の社会科学系研究者も含めたより大きな協働体制へと発展させたいと考えています。

さて、公共施設や流通システムなど様々な社会システムにおいて、経済学や心理学をなど社会科学研究と数学との融合への強いニーズがありますが、日本は残念ながらこの点において遅れをとっています。農業、地球環境そして社会科学と、MIの理念を拡充しながら、IMIは国際的にもユニークな研究拠点として発展を続けてまいる所存です。さらに共同利用・共同研究拠点として、関連研究者の皆様のご意見を幅広く採り入れながら、そのコミュニティとともにこれを推進するための交流の場と機会を提供いたします。ここに至るまでの関係各位のご協力に深く感謝するとともに、関係各位には、今後ますますのご支援をお願い申し上げる次第です。