新所長のメッセージ
2026年10月1日付で、白井 朋之教授がIMI所長に就任しました。
白井新所長のメッセージを以下に掲載しています。
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九州大学マス・フォア・インダストリ研究所(以下、IMI)は、平成23年4月にアジア初の産業数学研究所として創設され、令和8年4月に創設15周年を迎えました。平成25年4月に文部科学省共同利用・共同研究拠点「産業数学の先進的・基礎的共同研究拠点」に認定されて以来、先端的な数学研究と、産業・社会・学術の諸課題に応える数学の展開を一体として推進してきました。このような歩みと理念を受け継ぎ、このたび令和8年10月より第5代所長を務めることとなりました。
この15年の間に、数学を取り巻く環境は大きく変化しました。生成AIをはじめとする人工知能、量子技術、データ駆動型科学の急速な発展やサイバーセキュリティ技術の高度化に加え、エネルギー・環境、気象予測、防災、医療、交通・物流、材料・ものづくりなど、現代社会の幅広い領域が直面する重要課題はいずれも、複雑な現象を抽象化し、構造を見いだし、不確実性を定量化し、得られた結論の妥当性を検証する数学の力を必要としています。とりわけAIは、数学を基盤として発展する技術であるだけでなく、数学上の発見や証明、計算、研究情報の探索にも深く関わり、数学研究の方法そのものにも大きな変化をもたらしつつあります。このような時代において、数学には、技術を支える基盤としての役割に加え、技術の限界や信頼性を見極め、人間と社会にとって本当に問うべき課題を明らかにする役割が、これまで以上に求められています。
研究所の名称に掲げる「マス・フォア・インダストリ」(Mathematics for Industry, MfI)とは、純粋数学・応用数学を流動性・汎用性をもつ形に融合・再編し、産業界からの要請に応える中で生まれる、未来技術の創出基盤となる新しい数学研究領域です。産業・社会・諸科学の現場から本質的な問いを見いだし、それを普遍性をもつ数学の問題へと昇華し、新しい概念・理論・方法を創出し、その成果を再び現場へ還元する営みです。この双方向の循環こそがIMIの根幹であり、それを支え、発展させていくことが、今後も変わることのないIMIの使命です。
IMIのすべての活動の基盤は、深く自由で多様な数学研究にあります。長期的な視野に立つ基礎研究を大切にし、研究者が短期的な有用性だけに左右されることなく、本質的な問題に挑戦できる研究環境を支えていきます。同時に、数理最適化・モデリング、量子数理、統計・データサイエンス、暗号数理、AIと数学の新たな関係を探究する研究を重点的に推進し、基礎理論、応用、計算、データ、実装の間を自在に往来できる研究文化を育みます。こうした研究環境と文化を通じて、数学研究と社会との間にIMIならではの豊かな相互作用を生み出していきます。
産業界・異分野・地域社会との連携については、技術相談やマッチングを起点として、課題の発掘、研究チームの形成、共同研究やインターンシップの設計、社会実装、成果の評価に至るまで、各段階を一貫して継続的に支える共創体制の構築を目指します。IMIが中核機関を務めるマス・フォア・インダストリ・プラットフォーム(Mathematics for Industry Platform, MfIP)を通じて、全国の数学・数理科学コミュニティと連携し、社会からの多様な要請に応える開かれた窓口としての役割を果たしてまいります。
共同利用・共同研究拠点としては、研究集会、短期共同研究、若手研究支援、国際共同研究などを柔軟かつ適正に運営し、純粋数学、応用数学、統計学、計算科学、諸科学、産業界の研究者が、組織や専門分野の垣根を越えて集う場を提供します。萌芽的な着想を育てる研究から、社会的課題に取り組む領域横断型研究まで幅広く支援し、その成果を論文誌、レクチャーノート、成果報告書などを通じて国内外へ発信します。
人材育成は、研究と連携を支える中心的な使命です。大学院教育、研究インターンシップ、スタディグループ、ワークショップ、チュートリアル、国際派遣を有機的に結び付けます。確かな数学的素養を基盤として、現場の言葉に耳を傾け、本質的な問いを立て、問題を数理化し、異なる専門をもつ人々と協働し、その成果の意義と限界を社会に適切に伝えられる人材を育成します。また、研究倫理、知的財産、研究活動の公正性、研究成果・情報の適切な管理への理解も重視し、若手研究者や学生、多様な背景をもつ人々が安心して挑戦できる持続可能な研究環境を整えます。
国際連携については、「アジア太平洋産業数学コンソーシアム」(Asia Pacific Consortium of Mathematics for Industry, APCMfI)をはじめとする既存のネットワークと、九州大学がアジア・オセアニア地域で積み重ねてきた交流・研究教育の実績を基盤として、オーストラリア、ニュージーランド、ASEAN諸国との連携を強化するとともに、所員が欧米をはじめとする海外の大学・研究機関と築いてきた関係を生かし、国際共同研究を幅広く推進します。APCMfIが主催する国際研究集会 Forum “Math-for-Industry”をはじめとする国際的な研究交流を充実させ、その成果を共同研究、教育、人材交流、産学連携へと継続的に展開していきます。こうした取組を通じて世界各地の研究者や学生との交流を深め、地域の課題を起点として世界に通用する新しい数学を生み出す国際研究拠点を目指します。また、オープンサイエンスを積極的に推進するとともに、研究インテグリティと研究セキュリティにも十分に配慮し、信頼される国際共同研究を進めます。
創設以来、若山正人(平成23年4月〜平成26年9月)、福本康秀(平成26年10月〜平成30年9月)、佐伯修(平成30年10月〜令和4年9月)、梶原健司(令和4年10月〜令和8年9月)と続く4代の所長の卓越したリーダーシップと、歴代所員のたゆまぬ努力により、IMIは日本初の産業数学研究拠点として着実に発展してまいりました。その歩みを大切に受け継ぎながら、創設20周年を見据え、IMIを、世界トップレベルの数学研究を基盤に、多様な学術分野や産業界との協働から新たな価値を創出する国際研究拠点へとさらに発展させたいと考えています。
数学は、与えられた問題に答えを与えるだけの学問ではありません。複雑な現実の中から本当に問うべき問題を見いだし、新しい概念や理論を生み出し、人類の未来の選択肢を広げる知の営みです。深い数学が育まれ、社会の課題と出会い、人と知が育ち、その成果が再び新しい数学へと還る——IMIが、そのような知の循環の生まれる場であり続けるよう、所員一同とともに全力を尽くしてまいります。皆様の一層のご支援とご協力を、心よりお願い申し上げます。