九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所

マス・フォア・インダストリ研究所ニュースレター(2025年10月)

目次

季刊:「長」のつぶやき

2025年10月 所長の呟き

今は昔,大学の「学部長」「研究科長」「研究所長」など,いわゆる部局長は一種の名誉職で,時として「暴れる」教授たちを抑え込む権威をもち,主に内部の調整などに集中していた時代もあったと思います.もっと昔には,学部長には公用車もついた時代もあったとか.

現在のIMI所長は,日本で唯一の産業数理・応用数理を開拓し牽引する研究機関の長として,実務も含めてリーダー的な役割を担います.国内では産業界や行政,学会などとの意思疎通を密にして,戦略的に重点投資すべき研究の方向性を見出し,必要な概算要求(組織整備)や資金獲得に挑戦しなければなりません.また海外においてもコミュニティの活動を牽引したり,各国のコミュニティや研究機関との関係を築いて研究所や日本の認知度を上げ,インパクトの高い国際共同研究に向けた環境作りをしたりすることが重要です.

そのためには,IMIが産業界・社会・地域社会・研究コミュニティなどと「共に創る」研究所であることが重要です.国や社会の切実なニーズと個別の研究者のやりたいことを折り合わせ,所員も関連する方々も元気になる道,むしろ,研究者がやりたいことを追求していると自然にそれが社会貢献にもなっている,そういう道を探るのが,IMI所長の腕と言えましょう.

この数ヶ月,IMIの運営に関してさまざまな動きがありました.まず重点研究の方向性について,昨年,IMIは最適化と量子数理,および国際連携活動の強化を打ち出し,「先端最適化・量子数理研究部門」と「国際連携展開部門」を新設する概算要求を提出しましたが,8月に文科省から内々定が通知されました.最終決定は12月下旬に通知される予定です.なお,量子数理に関しては,既に内閣府のBRIDGEプログラムに採択され,学術研究員を1名雇用して研究を進めています.IMIは量子技術の業界団体「Q-STAR」のアカデミア会員ですが,9月9日には「Q-STAR・G-QuAT共同シンポジウム2025」が林芳正・量子技術推進連議員盟会長,島田太郎・Q-STAR代表理事(東芝社長)を始め,各界の多数の重要人物が参加して開催されました.そこに私も参加して,とてつもない熱気を肌で感じ,国の重要分野にIMIが貢献する重要性を改めて思い知った次第です.さらに,文科省の共同利用・共同研究システム形成事業「学際領域展開ハブ形成プログラム」には新学際研究分野「マス・フォア・ライフ」の開拓を目したプロジェクトを提案しました.新規1件のみの狭き門で,ヒアリングにまで進みましたが,力及ばず不採択でした.来年度も構想をさらに充実させて再挑戦します.

産業界,社会との関係強化に関して,IMIでは今年1月に企業や自治体幹部をお招きしてIMIアドバイザリーボードを設置しました.9月4日には第2回の会合を対面で開催し,現在の社会や科学技術の動向を踏まえた貴重なご意見を頂戴しました.それを運営に取り入れ,次回の会合(来年3月頃を予定)でその結果を報告します.

海外との連携強化に関して,まず,昨年度よりJSTのNEXUSプログラムに採択され,企業の協力の下でマレーシア工科大学(UTM)との連携活動が本格化しています.IMIはUTMの学生1名の長期滞在を受け入れ,教員1名と学生1名をUTMに派遣して共同研究を行いました.8月6日にはマハティール元首相の九州大学訪問の機会に,私が表敬訪問する機会を得ました.さらに8月26日にはUTMから学生2名,教員6名が来訪し,マレーシア大使からのビデオメッセージも得て合同研究集会が開催され,パートナー企業への訪問も行われました.今後,マレーシア分室の設置も視野に,連携を強化します.

IMIはアジア・太平洋産業数学コンソーシアム(Asia Pacific Consortium for Mathematics for Industry, APCMfI)の運営に参画し,事務局を置いています.その年会Forum “Math-for-Industry”は,今年は韓国のAjou University,Postech,NIMSがホストして,8月18日〜20日にソウルで開催され,九大からも12名の学生と1名のポスドク、9名の教員が参加しました.来年はタイで開催予定です.

さらに,私は各国の学会等をメンバーとする国際機関,国際産業数理・応用数理評議会(International Council for Industrial and Applied Mathematics, ICIAM)の理事を務めています.9月13日にハノイでBoard Meetingが開催され,次期Presidentの選挙が行われました.私は日本応用数理学会と日本数学会からノミネートされましたが,残念ながら選出されず,米国SIAMの前会長でICIAMの前SecretaryのSven Leyffer氏が当選しました.しかし,アジア太平洋地域や欧州から支持を得てかなりの票が入ったようで,これまでの海外活動の成果が支持という形で現れたことはよかったと思います.今後も理事の活動を続けつつ,4年後の次回の選挙はどうするか,状況を見ながら態度を決めたいと考えています.

その他,人材育成の一環として,IMIでは福岡県教育委員会と連携して中学生・高校生へのアウトリーチ活動にも積極的に取り組んでおり,出前授業のほか,7月30日には福岡県立高校の生徒向けに「Math for the Future」を開催し,好評を得ました.このような活動を通じて数学への社会の理解を得るとともに,数学が好きな生徒を増やし,将来の高度数学人材育成の基盤としたく思います.

以上のように,冒頭に記したビジョンを実現するため,IMIではさまざまな取組を行っており,それを通じて所員も元気を得て自分の研究活動に活かすことができていると確信しています.8月には日本経済新聞の取材を受け,9月13日に「「科学の女王」数学、日本の研究水準は高いが…AIなど産業応用は後れ」という記事が掲載され,メディアからも応援いただいた形です.以上の活動には,2024年度から本格稼働している「リエゾン戦略部門」が大活躍していることは特筆しておきたく思います.

ということで,私は今日もまたIMI所長として毎日をバタバタと送っているというわけです.IMI所長としての「腕」がどうかについては皆様のご判断にお任せしたく思いますが,今後もIMIに皆様のご理解とご支援をいただけるよう,どうぞよろしくお願い致します.

マス・フォア・インダストリ研究所 所長
梶原 健司

特集

研究者ピックアップ:研究・技術カタログ

IMI所員の主要研究課題を毎月3名ほどピックアップし、概要「数学の種」、1つのトピックの詳細「研究・技術カタログ」として紹介いたします。
「所員詳細ページへ」をクリックいただくと「数学の種」と簡単なリンク等の情報を、タイトルを直接クリックいただくか、「所員詳細ページへ→研究・技術カタログ」をクリックいただくと、研究・技術カタログをご覧いただけます。

プレスリリース・メディア

【プレスリリース】弊所が日本経済新聞の取材を受け、9月14日の紙面に掲載されました(オンライン版もあり)

【プレスリリース】研究成果:新型コロナワクチンの継続的な接種を優先すべきは誰か?

10月のニュース

令和7年9月4日、第二回 IMI アドバイザリーボードを開催

【写真・報告書追加】IMI・マレーシア工科大学CIAM共催の国際シンポジウム終了

数学・数理科学5研究拠点合同市民講演会「マス・フォア・ソサエティ -社会を支える数理のチカラ-」(2025/11/15(土)開催)のお知らせ

表彰

鍛冶 静雄 教授 2025年度日本液晶学会賞 論文賞(B部門) 受賞

IMI主催・共催の10月のイベント

第80回 La Trobe-Kyushu Joint Seminar on Mathematics for Industry

講演者:Masayo HIROSE, Kyushu University (Japan)

タイトル:Multiple-Goal EBLUP under an Area-Level Model for Small Area Estimation

第79回 La Trobe-Kyushu Joint Seminar on Mathematics for Industry

講演者:Dan Wang, Northwest University (China)

タイトル:Nonparametric control charts for monitoring changes in statistical processes

IMI所員が携わる10月のイベント(IMI主催・共催以外)

Random Geometry and Topology and Related Topics

(投稿者:白井 朋之)

京都大学数理解析研究所

第37回RAMP 数理最適化シンポジウム (RAMP 2025)

(投稿者:吉良 知文)

九州大学西新プラザ
弊所から以下の先生が実行委員として参画しています。
(敬称略)神山 直之(実行委員長)、吉良 知文、脇 隼人
*「マス・フォア・イノベーション 卓越大学院」が協賛として参画。

九州大学解析セミナー

(投稿者: 武内 太貴)

九州大学伊都キャンパス

Quantum Interactions – from and to Number Theory, Representation Theory, and Graph Theory

(投稿者:池松 泰彦)

九州大学伊都キャンパス

九州大学関数方程式セミナー

(投稿者: 武内 太貴)

九州大学西新プラザ

集中講義:深川 宏樹氏(DeepFlow株式会社)

(投稿者:田上 大助)

講義題目:微分形式を使った物理シミュレーション

九州大学伊都キャンパス

IMIコロキウム

IMI Colloquium in October 2025 「電気自動車の特徴と開発課題について」(2025/10/8(水)開催)のお知らせ

2025年度共同利用研究

干拓地における液状化ハザードマップの改善に向けた新たな手法(2025/10/24(金)開催)のお知らせ

代数曲線やアーベル多様体に関連する数論アルゴリズム(2025/10/20(月)–22(水)開催)のお知らせ

防災志向を深化させる実験・産業・数理の融合アプローチの新展開(2025/10/22(水)開催)のお知らせ

China-Japan Joint Workshop on Practical Inverse Problems Based on Interdisciplinary and/or Industry-Academia Collaboration(2025/10/14(火)–17(金)開催)のお知らせ

機械学習と数理モデルの融合と理論の深化 Ⅲ(2025/10/11(土)–13(月)開催)のお知らせ

xR技術を活用した教育手法の確立と教育DX化(2025/10/3(金)開催)のお知らせ

Digital Brain Workshop(2025/10/17(金)–19(日)開催)のお知らせ

Logic, Algebra and Category Theory: Applications in Computer Science(2025/9/29(月)–10/3(金)開催)のお知らせ

Non-Commutative Probability and Related Topics 2025 (非可換確率論とその関連領域2025)(10/8(水)–10(金)開催)のお知らせ

海外からの来訪研究者

9月来訪者: 1

Francis Hui (The Australian National University(オーストラリア))

9月来訪者: 2

Emi Tanaka (The Australian National University(オーストラリア))

9月来訪者: 3

Soon-Sun Kwon (Ajou University (韓国))

人事異動

異動 (2025年10月) 3

福本 康秀 学術研究員

採用(次世代ものづくりイノベーション推進拠点)

異動 (2025年10月) 2

森山 哲裕 准教授

採用(次世代ものづくりイノベーション推進拠点)

異動 (2025年10月) 1

Nguyen Dinh Hoa 准教授

退職:ハノイ科学技術大学・講師へ
※R7.10.1~R8.9.30 学術研究者(訪問教授)として受け入れ予定です。

人事公募

准教授2名および助教2名 計4名程度 公募(2025/12/5(金)正午(JST)締切)

その他のお知らせ