産業数理統計研究部門長のつぶやき:統計数学とAI、それから産業 — どこに向かう?
最近、AIの進歩を前にして、統計の研究者として少し怖くなることがあります。実際、私が「感覚的に正しい」と思った理論をなんとなくAIにつぶやいたら、数分で厳密な証明ができてしまいます。
これまで私は自分なりに統計の研究を積み重ねてきたつもりでしたが、AIが登場して、自分のやってきたことは果たして価値があったのか、考え込んでしまうことがあります。たとえば、いわゆる「既存手法を少し拡張しました」というタイプの研究については、これからの価値を問い直す局面に来ているように感じています。
あまりに時代の変化が激しく、呆然としてしまいそうです。しかし、それでも前に進まなければいけません。まずはAIを勉強し、どっぷり浸かり、多くの失敗と経験を積み重ねることを恐れないことが大切なことだと思います。
しかし、それだけでは時代を追いかけているだけで、何かが足りない気がします。
どうすればいいのでしょうか?
悩んだ結果、私なりの答えは目の前にありました。「マス・フォア・インダストリ」です。
「そうだ、九州大学に着任したときの原点に戻ろう」そう思い始めたのです。
なぜ「マス・フォア・インダストリ」なのか。
それは、産業と学理が、これまで以上に近づきつつあるからです。
産業の世界には、学理とは無縁に見える要素も多くありますし、工学的な積み重ねが支えてきた部分も大きいと思います。ただ、近年の産業の発展は凄まじく、大学との距離も急速に縮まっています。産業が大学に近づき、大学も産業に近づく。そんな時代が来ているように感じます。
そうした中で私たちは何に重きを置けばいいでしょうか。私は、「現場と本気で向き合うこと」だと感じています。なぜなら、現場と向き合って初めて「専門家としての経験や勘」をどう活用できるか考えることができるようになるからです。さらに、AIによる膨大な知の集積に加えると、より強固なものになります。
これらの「現場の肌感」「統計や数学の専門家としての経験や勘」「AIによる膨大な知の集積」が三位一体となることで、誰も考えてこなかった新たな産業や学理が生まれてくるかもしれない、そんな予感がするのです。
もちろん、「現場と本気で向き合う」ことは、大変な時間と労力がかかりますし、成果もなかなか出ません。並大抵の努力ではできません。しかし、個人的には、それだけの努力を行うだけの価値があるかもしれない、と感じています。
統計部門では、産学連携のみならず、統計のチュートリアルを開催したり、国際活動を行ったりしています。これらの「現場の活動」を通じて何を感じ取り、どういう取り組みを行っていくべきか、これから時間をかけてゆっくり考えていきたいと思います。