代数解析: 数学の落ち合うところ
落合 啓之
学位:博士(数理科学)(東京大学)
専門分野: 代数解析
私の研究分野は代数解析学で,特にD加群を用いた研究を主としています.初期の頃,修士論文ではある非ホロノミー系を満たす佐藤超関数を調べ,学位論文ではあるホロノミー系を満たす半単純リー群の大域指標の定める輪体を調べました.もう少し先を説明するために,私の経歴を簡単にまとめてみます.1998年,それまで9年間お世話になった立教大学を離れ,九州大学に赴任しました.3年後に東工大へ移り,さらに2002年の秋に名大へ異動,そこで7年を過ごし,2009年の秋からまた九大に戻ってきました.この間,概均質ベクトル空間,1変数ならびに多変数の超幾何関数を始めとする特殊関数,そしてゼータ関数と出会います.私自身は佐藤幹夫氏の直接の指導を受けたことはないのですが,無意識のうちにその影響下にいると思っています.ゼータ関数も研究の対象にしていますが,強いて言えば,私自身の
興味は,数に対するものよりも関数に対するものといえるでしょう.今まで論文の対象としてきたものも,関数で表わせるものやそれらの間の関係式として表わせるものが多いと思います.そして,関数そのものとそれを決定・記述する様式の双方からアプローチしています.これが代数解析的な手法の特徴のひとつです.また,図形全般に対する興味はともかくとして,不変式論,ならびにその双対と言える軌道分解には,研究の初期の頃からかなりの思い入れがあります.座標を使わない内在的な叙述と座標を使った明示的な記述を,あえて片方だけで徹底したり行ったり来たりしたり,あるいは組み合わせ的技法を絡めたりという部分に面白みを感じています .今やKazhdan-Lusztig 予想も常識のようになりつつあり,見渡せる景色は前世紀よりも確実に広くなっていると思います.
このパンフレットはIMI に関するものですから,私とマス・フォア・インダストリとの関わりについて説明します.2010年4月に,GCOEの事業推進担当者のひとりである岩崎克則氏が北大へ転任したため,岩崎氏のつとめていた「機能数理の基礎」ユニットの事業推進担当者を引き継いだことで,マス・フォア・インダストリとのつながりが始まりました.このたび,IMIの発足に伴い,数理学研究院を1年半で再び離任することとなったのは残念ですが,「転んでも起きない」という不屈の精神で新地へ向かいたいと思います.私の今までの活動のうち,社会との接点と言えるのは,数学が伝統的に社会と向き合ってきた諸分野のうちのいくつかですが,数学の社会への情報発信や連携は機会をいただいてつとめています.例えば,高校教育(のうち,おもに入試問題説明会や教科書の編集に関すること),保険数理(アクチュアリ会の研究会員),執筆(数学セミナーや数学小景などでの数学の平易な紹介),講演(公開講座,市民講座)などです.昨年度から安生健一氏を代表者とするクレスト(科学技術振興機構)の『デジタル映像数学の構築と表現技術の革新』の九大班の班員もつとめています.
近年は幾何学的表現論の枠組みで積分が果たす役割を中心に研究を進めています.日本数学会では函数解析分科会の「表現論と調和解析グループ」に属していますが,必ずしもその範囲に限らない対象や手法にも興味を持って活動して来ました.今後も柔軟に数学をして行きたいと考えています.