九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所

小区分別統計的推測法の理論発展及びその活用

廣瀬 雅代

学位:博士(工学)(大阪大学)

専門分野: 統計科学,小地域推定,混合効果モデル

データサイエンス全盛のこの時代に,Evidence Based Policy Making (EBPM)の重要性が認識されつつある.その中で小区分ごとの実態把握に基づくより丁寧な計画立案への期待も大きくなっており,調査データによって小区分ごとの特性値を推定する際,区分ごとの情報のみならず,統計的モデルを介して他の区分からの情報を有効に活用することで,統計的精度向上の達成が期待できる場合がある.

そのため,このような統計的推定手法を活用したエビデンス資料作成・提供は,有用な計画立案の礎になり,社会的課題解決への期待を高めることができると考えている(図1参照).

統計的モデルを用いたモデルに基づくアプローチの研究は,海外の官庁統計分野でも盛んに行われ発展を遂げている.官庁分野のみならず,他の様々な応用分野で重要視されている研究でもある.ここで,モデルに基づくアプローチに関する私の研究内容を2つ簡単に紹介する.

(1)小区分別統計的推測法の理論

小区分ごとに特性値を推定する場合,統計的モデルを活用したモデルに基づくアプローチでは,仮定モデル下の線形不偏なクラスの中で平均二乗(予測)誤差を最小化する最良線形不偏予測量に対する経験的最良線形不偏予測量が多くの場面で活用される.しかし,従来用いられる方法は実用面からの問題を複数抱えている.私は,その経験的最良線形不偏予測量とその予測誤差の問題を考慮に入れた,統計的精度の損失がほとんどない,改善可能性のある手法の開発を目指している.また,リサンプリング法と同様の統計的精度を保ちながら,計算負荷を軽減できる,より実用的な経験的ベイズ信頼区間法の提案も行っており,さらなる効率的な統計的手法開発とその理論保証に取り組んでいる.

(2)実データ分析への応用

開発した統計的手法を実データに適用し,質の良いエビデンス資料作成に取り組んでいる.これまでにも,過去に開発した統計的推定手法を,わが国のある都市住民を対象とした意識調査データに適用し,小区分別に防災意識レベルの実態把握を図っている.さらに,国勢調査小地域集計との共通項目データを活用して,国勢調査結果との誤差を調べている.その結果,(国勢調査小地域集計を真とした場合,)慣習的に用いられてきた推定手法と比べたときの適用手法の一種の有用性を示すことに成功している.詳細は廣瀬ら(2018,日本統計学会誌)を参照されたい.

図1EBPMのための資料作成における統計的研究の立場の一例