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九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所

波形パターンによる説明可能なAI

山口 晃広

学位:博士(情報科学)(名古屋大学)

専門分野: 機械学習, XAI, 時系列データマイニング, 解釈性

 私の専門分野は,説明可能な機械学習や時系列データマイニングです.インフラ・製造分野向けに,センサデータを用いたAIによる高信頼で効率的な設備診断を目指しています.この産業分野では,AIの判定性能以外にも,次のような課題がよく現れます.
課題A) → 現場の専門家は,波形に専門知識を持ち,AIの判定根拠を知りたい.
課題B) → 設備や製造装置は殆ど正常に稼働しており,異常事例の収集が難しい.
このような産業課題に対応するため,AIの判定に用いる波形パターンを発見する機械学習技術を提案し,事業適用を進めています.以降では2つのアプローチを紹介しますが,専門分野に限らず数理技術と事業課題を結び付けることも目指しています.

(1)Shapelets学習
 データマイニングや機械学習の分野で,正常や異常などのクラスに属する時系列データセットを入力して,新しい時系列データのクラスを自動判定するクラス分類が研究されています.その中で,クラス分類に用いる局所的な波形パターン(shapelets)も分類モデルと一緒に学習する技術があります.この技術では,shapeletsの個数 K や長さ L を事前に与えるとその形SK×L の行列となり,クラスの誤分類を最小にするようにSを求める連続最適化問題として定式化されます.この技術を用いると,専門家はねじの緩みなど故障に関係する機械的な現象とshapeletsを照合して判定根拠を解釈できます.そのため課題Aを解決します.

分類に用いる局所波形パターン(shapelets)の学習

 しかし,従来技術では学習時に異常事例も必要となり課題Bを解決しません.そこで,課題A&Bを解決するため,正常事例のみでshapeletsを学習する異常検知技術を開発し,変電所設備に適用しました.正常なshapeletsから波形が最も崩れた箇所を拡大すると,異常兆候波形の傾きが僅かに緩やかであることが分かり,部品の不具合で設備の動作が緩慢になるという専門家の知見と一致しました.このように,専門家は判定根拠に納得しAIを利用できます.

変電所設備へ適用した際のshapelets学習の判定根拠

(2)反事実波形生成
 判定根拠を提示せずに高い分類性能を達成する技術が現れ,インフラ・製造分野でも高い異常検知性能を確認しました.そこで,判定部と根拠提示部を切り離し,それぞれで高性能化をはかる説明可能AI(XAI)に着目しています.その中で,反事実説明という方法を適用すると,shapelets学習のように,分類や異常検知の判定根拠となる局所波形パターンを生成できます.変電所設備の動作終了時に衝撃を吸収するタイミングがずれるという種類の異常に,開発した本技術を適用し,適切な反事実波形が生成されることを専門家と確認しました.

反事実波形生成による判定根拠

反事実波形生成による判定根拠