九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所

4月 IMI Colloquiam(2022/4/13)を開催しました

2022年 4月13日, 4月IMI Colloquiumを開催しました.

4月 IMI Colloquium
講演タイトル : 脳と数学の接点を見つけよう
講師:岡本 剛 (九州大学 基幹教育院 自然科学理論系部門)
場所:Zoomによるオンライン配信

本講演では最初に, 岡本先生が活発に進めている産学連携の経験か ら, 企業が学術界との連携で何を求めているか, 逆に学術界が企業との連携する際に何を注意すべきか, 等を具体的な例を元に示して頂いた. 産学連携はIMIにおける重要な活動の1つであることから, 特にIMIからの参加者にとって有用な知見を得ることが出来た.

次に, 数学者にとって脳のどの部分が大事かを受講者に問いかけな がら, 巨視的な観点において脳の各部位がどのような役割を担っているか, 微視的な観点から脳内細胞の種類とそれぞれがどのように働くか, さらに脳内の神経細胞の振動現象としての脳波についてな ど, 脳に関する基本的な事項について解説頂いた. この中で, 例えば単一のニューロンの挙動を Hodgkin–Huxley モデルなどの数理 モデルで表し, 微分方程式に対する分岐解析などを行うことでその 理解を試みた例等も紹介頂いた. しかし実際の脳の働きを理解するには, 単一のニューロンを精緻にモデル化すること以上に, 数百万, 数百億からなるニューロン全体のネットワークの結合状態とその上 での振る舞いを把握する必要があることにも触れられた.

その後, 青い黒板消しを動かした場合を例として, 脳の中で視覚情報が2つの経路に分かれて伝達している一方でどのようにして1つの 物として情報が把握されているか, と言った結びつけ問題など, 岡本先生がお持ちのいくつかの問題意識を挙げて頂いた. これらの問 題意識を元に, 岡本先生が目指す “意識の座〜誰が見ているのか” について解説頂いた.

最後に, 岡本先生が近年に取り組まれている研究に関する実験現場の統計処理について紹介頂いた. 例えば焚き火の効果を脳科学的に学術的に調べる際に, 温度湿度風速などの様々な物理データ, 実施者の主観評価, 焚き火の間に見られる脳波の時空間パターンを合わせた複雑な経時変化データを扱う必要がある. このため, 2要因以上の反復測定分散分析に対応するノンパラメトリック検定がない, 検定の繰り返しに対する補正が第二種過誤を引き起こす, 超多変量同時測定データに適切な多変量解析手法がない, などの問題点が挙げられ, 脳と数学・統計との接点の1つとして可能性を示唆頂いた.

参加者:63人 (内 学生: 36人; 教員: 21人; その他: 6人)