九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所

2025年10月 IMI Colloquiumを開催しました

場所:IMIオーディトリアム(D-413)及びZoomによるオンライン配信
講師:トヨタ自動車株式会社 掛川 智央氏、井倉 将実氏
参加者 :40人(学生: 14人; 教員・ポスドク: 17人; 民間企業他9名)

2025年10月8日、トヨタ自動車株式会社の掛川 智央氏、井倉 将実氏による講演「電気自動車の特徴と開発課題について」が行われました。

・同社で開発が展開されている「電気自動車」の基礎知識、エンジンを含むガソリン車との違いによる開発・制御の違い、ソフトウェアが開発の決め手になることによる参入障壁の差と世界における開発動向が紹介されました。そして、商品力の鍵を握るものがソフト、かつその開発の「最初の企画」段階で決まり、特に空気抵抗をはじめとした数式で表される特徴量が重要となることを強調されました。
・電気自動車のソフト開発について。開発力、特にそのスピード向上と、制御の効率化実現を目指すならば、従来のものと違い複数のDC(ドメインコントローラ)で制御する機構を構築する必要があること、加えてソフトとハードの開発の「考え方」も再定義しなければならないことが強調されました。

・後半に、電気自動車開発で同社が抱えておられる課題を3つ提示されました:
1. 電力マネジメント:電気自動車はバッテリー依存のため、消費電力に敏感です。さらに使用する環境、所有者の使用状況によっても変動因子が様々で、これらを網羅・考慮した効率的な制御が要求されます。
2. 故障予知:高品質の製品を生産・販売するにあたり、品質が確保されていることを「説明可能である」ことが要求されます。センサや通信データが膨大となっていく中で、品質の担保には故障「前」の異常を検出することが重要となります。例えば、稼働中の自動車から得られるCAN(コントローラ・エリア・ネットワーク)のデータを継続的に分析することで「目に見えない予兆」を抽出し、大きな不具合が発生する前に修正することが要請されます。数学的アプローチは、この課題における大きな貢献が期待されます。
3. ソフト品質確保:自動運転など、複数の機能の連携に伴い、ソフトウェア・コードの行数、要求仕様書の量が膨大になります。これに合わせて、全体の品質を保つことを検証するコストも膨大となります。自動車のモデル検証やシミュレーションなど新しい手法が必要で、数理的アプローチに対する期待が高まっています。

結論として、基礎的なものを含めた「数学的知見と数理技術」、「高度なソフトウェア技術」の活用により、電気自動車の価値と開発スピードを向上させ、日本の自動車産業の競争力強化につながる可能性があることが改めて強調され、講演は締め括られました。

その後、IMIの教員・学術研究員、数学科・数理学府の学生と掛川・井倉両氏による、エンジン車と電気自動車の構造や製造の比較、設計思想、電気自動車におけるソフトウェアの大きさと付随する課題の違いなどに関する様々な質疑応答と意見交換がなされ、盛況のうちに本コロキウムは終了いたしました。