九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所

圧縮性回転粘性流体の数学解析

藤井 幹大

学位:博士(数理学)(九州大学)

専門分野: 流体力学に現れる偏微分方程式の数学解析

大気や海洋などの大規模な地球流体の運動では,地球の自転の影響によるコリオリ力が流体の運動に作用することが特徴的である.実際,流体の基礎方程式であるNavier-Stokes方程式を回転座標系の問題に書き換えた際に流体の加速度を記述する項にコリオリ力を表す異方的な線形項が現れる(図1).流体が密度変化しない「非圧縮性回転流」は物理的にも自然な状況であり,この場合では数学的にも多くの研究が行われてきた.特にコリオリ力は線形解に分散性の効果をもたらすため,流体のエネルギーには一切影響しないにも関わらず,大きい初期値に対して回転速度を十分速く設定することで時間大域解を構成できることが知られている.

(図1)

一方で,流体の密度変化を考慮した「圧縮性回転流」の場合の数学的な研究はあまり行われていないようである.地球流体力学では非圧縮性流体で十分であるため圧縮性性流体の解析は軽視されてきたという背景が想像されるが,圧縮性回転流には回転浅水波方程式などの物理的にも重要な応用を持つ方程式があるため,その数学解析は重要な課題である.最近の私の研究により,圧縮性回転流は非圧縮性回転流と異なる性質を持ち特徴的な挙動を示すことが明らかとなった.大きな違いは密度変化を考慮したことでコリオリ力が流体のエネルギーに影響を与える点である.特に,コリオリ力は0階の線形項であるため線形解の時間減衰率を悪くさせる効果を持つため,非線形解の時間大域的可解性の構成では困難点が多いが,技術的な工夫を施すことで解決することが出来た.

(図2)

今後の研究では,木星の大赤斑(図2)の解析などにも用いられ応用上重要な回転浅水波方程式の解析に取り組む.上記で述べた圧縮性回転Navier-Stokes方程式の研究は3次元流体であったが,回転浅水波方程式は2次元流であるため低周波での非線形評価がさらに難しくなる.さらに,回転速度を無限大とする特異極限を考えると,3次元の場合とは異なった振る舞いをすることも期待され多くの興味深い問題がある.