九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所

最適化を基本とした研究・教育活動を目指して

脇 隼人

学位:博士(理学)東京工業大学

専門分野: 最適化理論, 連続最適化

自然界のみならず,社会活動や日常生活においても,「最適化」が現れるので学ぶ価値のある研究分野といえよう.最適化の中でも,連続量を扱う最適化を連続最適化と呼び,私は主に連続最適化を対象として研究や教育を行っている.例えば,大学一年生の微分積分学で習う「ラグランジュの未定乗数法」は連続最適化で議論される手法の一つである.以下では,私が携わった研究・教育および産学連携について簡単に紹介する.

これまで凸最適化,特に,行列変数を持つ半正定値計画問題と呼ばれる最適化問題を中心に研究をしてきたが,IMIに来るまでは,半正定値計画問題を使って別の最適化問題を解くアルゴリズムを提案・実装する研究に取り組んでいた.現在は, もう少し半正定値計画問題に関して理論寄りの研究にシフトしている.具体的には,制御理論で現れる最適化問題に対して,得られる半正定値計画問題をテーマに研究を行っている.この半正定値計画問題はしばしば悪条件になることがあるのだが,それがシステム論の言葉で記述できることに気づき,それ以来このテーマに取り組んできる.調べてみると双対問題が興味深い数学的構造を有しており,幾つか論文を書いている.「最適化理論の深化よりも, 他の研究分野でどうやってうまく最適化理論を使うか」,ということを考えることが性に合っているようだ.

学生指導においては「分野の縮小再生産はしない」と考えていて,できるだけ自分の守備範囲の外の最適化について研究してもらっている.例えば,整数計画問題の応用およびそのためのアルゴリズムの開発などがそれにあたる.幸い,学生が優秀なためこちらがいろいろと教わって論文を一緒に書いている.

理学部数学科では最適化を教える講義がないが,大学院では用意されている.こちらもできるだけ幅広くテーマを選んでいて,最適化理論の基本を重点的に教えている.

これまで,IMIのシステムを利用して,自動車業界,製造業,行政などと幾つかのテーマで研究費をもらって共同研究を行った.いわゆる産学連携である.私の方針としては,学生に補助はしてもらうができるだけ一緒に手を動かすようにしている.学生を安価な労働力と捉えられないようにするためだ.

このように取り組んでいると,産学連携についてはいつも難しさを感じている.その一因は,「論文を書いて自分たちの獲得した知を後世に残す」という共通認識を持てないところにある.我々にとっては当たり前の思想であるが,相手側は必ずしもそうではない.産学連携を通じて産業界・教員および学生が論文を書き,その学生が学位を取り,学術界・産業界で活躍してもらうのが産学連携の理想だと考えている.この理想に同意してもらえる相手と優先的に共同研究を実施しようと思っている.