九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所

物理モデリング・シミュレーションのための機械学習手法とその理論解析

谷口 隆晴

学位:博士(情報理工学)(東京大学)

専門分野: Scientific Machine Learning,科学技術計算

2020年ごろより,Scientific Machine Learningと呼ばれる研究分野が注目されています.この分野は,AI for Scienceと呼ばれる分野と非常に近いもので,科学技術計算と機械学習手法を連携した方法が開発されています.主に物理モデリングや物理シミュレーションのための機械学習手法が開発されており,これまで数理モデルが未知であった現象に対して観測データからそれを記述する微分方程式を導出したり,流体計算をはじめとする物理シミュレーションを加速する方法などが研究されています.実際に,有限要素法などの数値シミュレーション手法では数時間かかるような計算をわずか数秒に短縮した例などが報告されています.このような方法は,産業界における製品開発を大幅に加速できるかもしれない方法として期待されています.具体的な手法としては,Physics-Informed Neural Networksや作用素学習と呼ばれるシミュレーションのための方法,Neural ODEやHamiltonian Neural Networksと呼ばれる物理モデリングのための方法,DMDやKoopman作用素と呼ばれるニューラルネットワークに依存しないモデリング手法,SINDyやKolmogorov-Arnold Networksなどの解釈性の高い数理モデルを導出する方法などが知られています.

一方,このような方法は,従来の数値シミュレーション手法に比較すると,その信頼性に不安が残ります.そこで,私たちは信頼性の高い,物理モデリング・シミュレーションのための機械学習モデルの開発とその理論解析を進めています.特に,機械学習手法による予測結果では,エネルギー保存則をはじめとする物理法則が守られないことが多いです.そのため,予測結果は不自然に発散したり,減衰したりする可能性があります.そこで,物理法則を守るような手法の開発が望まれます.

私たちは,多くの微分方程式で,エネルギー保存則などの物理法則が,方程式のもつ幾何学的な性質に由来していることに着目して研究を進めています.実際,そのような幾何学的な性質を保つように機械学習手法を設計すると,多くの場合,予測性能や安定性が大幅に向上します.図1は実際にそのような手法の例であり,摩擦などの散逸項をもつ古典力学系がConformal Symplecticityという性質で特徴づけられることを利用し,そのような性質をもつ手法によって翼回りの流れ場の予測を行ったものです.従来法に比較して,非常に高精度に予測ができていることが確認できます.

図 1:翼回りの流れ場の予測結果.