オイラー数とマグニチュード

浅尾 泰彦
学位:博士(数理科学)(東京大学)
専門分野: マグニチュード理論、代数トポロジー
トポロジーとは、「つながり方」を数で計る数学です。では、「つながり方を計る」とはどういうことでしょうか。
今、私たちの目の前に何か物体があるとします。私たちはその大きさを計る方法をいくつも知っています。長さ、重さ、体積、個数など、挙げればきりがありません。また、例えば長さには、メートル法やヤード法など様々な単位があります。
しかし、物体の特徴は大きさだけではありません。色や手触り、匂いといった性質もあります。それぞれの性質について、その度合を表す単位や尺度がこれまでに作られてきました。そのうちの一つが、「つながり方」とその度合です。つまり、その物体を構成する要素たちがどのようにつながり合って全体を形作っているのか、そのつながり方を「数」として表すことができるのです。そして、その測り方にもいくつもの種類があります。長さにメートル法やヤード法があるように、数学者たちはこれまでに様々な「つながり方」の測定方法を生み出してきました。

「つながり方を計る」ことで問題を解決した有名な例があります。それは18世紀初め、ケーニヒスベルクという町にあった7つの橋を、同じ橋を二度通らずにすべて渡ることができるか、という問題です。橋の図に線を書き込み、ありそうなルートをたどってみると、この問題は対応するグラフを一筆書きできるかどうかという問題に帰着することがわかります。実は、このグラフは一筆書きすることができません。18世紀の数学者レオンハルト・オイラーは、このグラフの「つながり方」を数で表すことで、その事実を証明しました。オイラーはこの問題を解いた後、オイラー標数と呼ばれるつながり方を表す数を導入しています。 この解決の考え方を整理してみましょう。まず、橋の絵からその骨格にあたるグラフを作ります。そして、そのグラフのつながり方を数によって表現することで、問題を「数の問題」に落とし込んでいます。このような問題解決の考え方は、現代の幾何学の研究でも頻繁に用いられています。解析したい空間から、その骨格にあたる対象 X を取り出し、X のつながり方をオイラー標数によって計るのです。ただし現代では、グラフの代わりに圏と呼ばれる対象を用いることが多くなっています。また、オイラー標数という測定方法も、ホモロジーやホモトピーと呼ばれるより高度な手法へと発展しています。これらの方法は、長さの単位どうしに互換性があるように、互いに深く関係しています。
ここでは空間から圏という骨格を取り出しましたが、実は圏という概念を少し強めることで、空間そのものを表すことができることが分かってきました。この強められた圏を豊穣圏と呼びます。豊穣圏は、通常の圏にもう一つ構造を加えることで作られます。加える構造の種類によって、得られる豊穣圏の姿も変わります。その代表的な例の一つが距離空間です。例えば、ユークリッド空間の部分集合は距離空間です。このように私たちにとって身近な空間も、実は圏の仲間として理解することができるのです。
圏からオイラー標数のような「つながり方」を表す量が計算できるように、距離空間からもそのつながり方を表す量を取り出すことができます。2000年代初め、数学者トム・レンスターはその量を「マグニチュード」と名付けて発表しました。提案されてからまだ20年あまりの新しい概念であり、その性質や効率的な計算方法、さらには応用の可能性について、現在も活発に研究が進められています。
私はこの新しい「つながり方の測定方法」であるマグニチュードについて、基礎理論を整備・深化させるとともに、産業的問題への応用の可能性を探る研究を行っています。