九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所

Mathematics in Industry Study Group 派遣報告

2016年2月1日から5日にかけて,オーストラリアのアデレードで開催されたMathematics in Study Group (MISG) に 数理学府から3名の学生が派遣されました.また,IMIから梶原健司教授(オーストラリア分室運営責任者), Pierluigi Cesana准教授(オーストラリア分室),小野寺有紹助教が参加しました.3名の学生は積極的に問題解決に 参加して期待を大きく上回る活躍を見せ,一段とたくましく成長して帰ってきました.以下に学生の参加報告を掲載します.

なお,3名のうち2名の派遣にはオーストラリア政府の文化機関である日豪交流基金(Australia-Japan Foundation)の 支援をいただきました.この場を借りて感謝申し上げます.


鴨田憲太朗(数理学府修士課程2年)
MISG2016で私は主にDST Groupに参加し,データを整理する課題を考えた.世界経済の分野ではデータを,客観的・具体的な数値としての「ハードデータ」と, アンケートなどで得られる言語的な「ソフトデータ」の2つに分類している.ソフトデータは記録から抽出・計算するなどの手間が必要ないため比較的短時間で集計できる反面,主観や表現に幅があり曖昧なデータと言える.多くのデータを集計し利用するには,ソフトデータの曖昧さをうまく評価する事が必要になる.このような前提の下で私は,二つの対象AとA’についてのデータがあり,その対 象が同じものかどうかを判定したい,という課題に取り組んだ.例えばAとA’という二人の特徴に関して「Aは黒髪.身長は180cmぐらい.…」「A′の髪はブラウンで背は高かった.…」などの証言があるとして,二人が同一人物かどうかを考えるのである.言語的な変数を数値化する事を言語的に考える「ファジー理論」や,対象の全体的なデータの類似を調べる「グラフの構造類似」など,あまり馴染みの無い理論について学ぶ事ができ面白かった.また,英語で苦労する事は多かったが,他の参加者の方々の多くもそれらの理論に詳しい訳では無かったため,数学も英語も分からないときには積極的に質問するなど(課題への貢献は別にして)貴重な体験となった.私はオーストラリア分室のキックオフミーティングにも参加させて頂いていたのであるが,そのときにはポスター発表を最大の目標としてしまい,今思えばそれ以外の部分では受け身がちな英会話しかできていなかった,と,新たに反省する部分も見つかった.この経験は今後のさまざまな活動に役立つと確信している.機会があれば是非また参加したいと思う.

畠山優太(数理学府修士課程2年)
アデレードのサウスオーストラリア大学でMISG2016に参加した.私の携わったDSTグループの課題は“2人の人間A,Bのそれぞれの情報が存在する時,どのようにしてA,Bが同一人物であると判断するか?”である.人の目による情報(例えばA,Bの髪の色や背の高さ,推定年齢など)は観察者によって曖昧であり,それらの情報を集めて統合し,判断することが重要となる.曖昧な情報を数値化して判断する為の道具として私たちのグループではFuzzy理論について勉強した.更に,Fuzzy理論とは別のアプローチとしてStructual similarityの概要を学んだ.どちらも私の専門分野でなく,また,英語での議論についていくことが大変難しかったが,休み時間にオブザーバー及び同じグループの方々と交流することによって内容を把握し,解決法を模索した.拙い英語であっても,人見知りせずに積極的に議論に混ざることの大切さを学ぶことが出来た.MISG2016では海外での交流と,企業で用いられる数学について知ることができ,非常に良い経験となった.今後もこの様なワークショップに参加する機会があれば,私の専門分野と関係なく,積極的に参加していきたい.

山口達也(数理学府博士後期課程1年)
MISG2016に参加して,話すことの重要性を改めて感じました.初めは相手が話す内容を 理解するのも困難で,なかなか自分から話すことができませんでした.しかし,たとえ 下手な英語でもわからないところを質問したり,説明を求めたりすることでグループ活動に参加することができました.
   スタディグループではModelling water pollutant density associated with surface water runoff (SA Water) に参加しました.私のグループは降雨量と河川の水位の関係に着目し,貯留関数法を用いたタンクモデルの適用を試みました.私は現地大学の研究者と共にパラメータフィッティングを行い,概ね良い結果が得られました.この結果から,タンクモデルは降雨量から川の流量を予想するのに有効な手法であると提案することができました.
   買い物や食事,トラム(路面電車)での移動など,すべてのことが新鮮で,毎日楽しく活動する ことができました.特に印象に残っていることは,ホテルのエレベータで一緒になった観光者とたわいない会話ができたことです.これまでは日常会話に苦手意識があり,英会話に焦点を当てて英語学習をしてきました.その成果が実感できたことはとても嬉しかったです.
   このオーストラリア滞在で,何事にも恐れずに挑戦することが大切だと学びました.このことを生かして,今後の研究だけでなく,英語学習にも力を入れて,様々な場面で積極的に活動してゆきたいです.

Cesana准教授,梶原教授,山口君,鴨田君,畠山君,小野寺助教