九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所

リー群の表現論とフーリエ変換

北川 宜稔

学位:博士(数理科学)(東京大学)

専門分野: リー群、表現論

私はリー群の表現論と呼ばれる分野を専門にしています。専門分野が表現論と言うと、文学かと勘違いされることもあるのですが、れっきとした数学の一分野です。例えば、応用上でも重要なフーリエ変換は表現論の基本的な例になっています。

フーリエ変換は、関数を各周波数成分がどれくらい含まれているかという別の関数に変換するものです。フーリエ変換は様々な良い性質を持ちますが、ここでは平行移動との関係を考えます。
関数を平行移動するというのは、グラフを平行移動するということです。グラフを平行移動しても、位置が変わるだけで形は変わりません。一方で、ある点での値だけを見ると大きく変動し得ます。つまり、巨視的にはあまり変わっていないように見えますが、微視的には大きく変わっています。
関数を平行移動してからフーリエ変換を行うと、フーリエ変換を行ってから指数関数を掛けたものになります。関数を掛けるという操作は、各点での操作なので、今度は微視的にはとても簡単な操作になっています。フーリエ変換は、このように平行移動という幾何的な変形を、関数を掛けるという1点ごとの操作に変換するもの、と思うことができます。

平行移動というのは数直線が持つ対称性です。数直線を円に変え、平行移動を回転に変えてフーリエ変換と同様の操作を考えると、フーリエ級数展開が得られます。自然にこのアイデアは図形(多様体)とその対称性(群作用)に拡張できます。例えば、球面と回転を考えてもいいですし、正多角形の頂点集合と回転を考えることもできます。それぞれでまた別の変換が得られ、特に後者は離散フーリエ変換と呼ばれます。

数直線と関数の平行移動と同じように、図形に群作用があるとその上の関数全体のなすベクトル空間にも同じ群作用が誘導されます。このような群作用を持つベクトル空間のことを群の表現と言います。

では、どんな対称性でも良い変換が得られるかというとそうではありません。私はどんな条件があれば、良い変換が得られるのか、またその変換はどのように具体的に表すことができるのかということに興味があり、研究を行っています。

さて、対称性がなければ群の表現論は使えないかというとそういう訳でもありません。例えば、画像や音声のような有限なデータの分析をするとき、有限なデータを周期的に拡張してフーリエ変換を行います。このような操作は、量子コンピュータによる素因数分解アルゴリズムであるShorのアルゴリズムでも用いられていて、周期が未知のデータを周期が2のべき乗というコンピュータで扱いやすいものに無理やり変えフーリエ変換を行うことで、元のデータの周期を推定します。この応用では、平行移動のずれを無視したいという目的でフーリエ変換が用いられています。他にも、対称性のないものを表現に埋め込んで表現論を使うといった手法もあり、対称性の有無にかかわらず様々な分野での応用が期待されます。

私は現在、量子情報の数理教育に関するプロジェクトに参加しています。量子情報は表現論と非常に相性のよい分野で、これまでの研究の経験を役立てています。今後も、表現論の研究を続けつつ、その経験を量子情報などにも役立てていきたいと考えています。